山師カリオストロの大冒険
種村季弘
河出文庫　1998 初版

美貌の妻と連れ添ってヨーロッパ各地で医術・錬金術・予言などの奇蹟を演じ，美顔水や回春剤で大もうけを企んで社交界で暗躍したカリオストロ伯爵．その天才ぶりにゲーテが強く心惹かれ，からくも呪縛を断ち切った．大革命前夜の啓蒙主義と神秘主義が混交するヨーロッパ社会の心性を背景に，謎の人物の正体に迫る痛快評伝．

フランス革命直前のヨーロッパを大いに騒がせたこの特異な人物はゲーテを魅了しました。
ゲーテはイタリア旅行中にカリオストロの生家を訪ねて『イタリア紀行』に書きあらわし，後にカリオストロをモデルにしたロストロという人物を登場させる喜劇『大コフタ』を書いています．一方，カリオストロは錬金術や予言のほかに貧しい人たちには無料で医療を施していたため，民衆には聖なる奇蹟医として信奉されていました．当時の知識人や民衆の心に深く入り込んでいたのです．
1785年に王妃マリ＝アントワネットの頸飾りを詐取する事件が起きました．これは女詐欺師の仕業だったのですが，なぜかカリオストロの名前が挙がり，捕えられます．結局，フランス宮廷はバスチーユからカリオストロを釈放せざるをえなくなるのですが，解放の時，民衆は歓呼の声をあげて彼を迎えます．「王妃の頸飾り事件は革命の幕開けであった」（ゲーテ）．
18世紀後半とはどのような時代だったのでしょうか．「啓蒙主義と百科全書派が，理性の光によって地上から神を一掃し，同時にイエズス会が解散して地下に潜ったとき，急激な時代の転回は前代の敬虔主義に基づいた宗教感情に何らかの代償物を当てがってやらなければならなかった．」つまり，カリオストロを「口実にして狂熱的な夢遊状態に陥りたがっていた時代」だったのです。近代の「脱魔術化」とは言うものの，実はみんな「魔術」が大好き．それは，現代も同じですね．（紹介文より）

経年のヤケが見られますが中はきれいです。

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